2025
Vol.4
奥山民枝と中村まり子
5月29日 - 7月6日
【開館日】
会期中の木・金・土・日曜日
【開催時間】
10:00 - 17:00(最終入館16:30)
【出陳作家】
奥山民枝 Tamie OKUYAMA
中村まり子 Mariko NAKAMURA
中村まり子「無題(一部画像)」
ベン・シャーン「伝導の書」
奥山民枝と中村まり子
HOKUBU記念絵画館
奥山民枝の表現には、美しい天空を、詩的で官能的やり方で共感を呼ぶ、しかし甘すぎない雲と光があります。その作品を前にすると、その圧倒的なスケールを持った形と色の震動に包まれます。画家の視点は定かではありませんが、地上より空に近い場所のようです。雲海というのでしようか、それは沸き立つ光と柔らかい光との対比を表現しようとしているように思えます。実際、奥山ほど雲をよく知り、描く画家はいない気がします。
その天空の雲海全体には青や黄の色調が与えられています。しかし、その主たる色調は灰色と白です。その色とともに繊細な輪郭で描かれたリアルな雲には世界を理解する神の視点があるように思えます。
奥山民枝の世界には、神秘主義を発展するような雰囲気が漂います。幾何学の利用によりピラミッドは精密な設計図を手に入れましたが、それでも死者の保存のために呪術で生命を吹き込む必要があったに違いありません。そういう意味で奥山民枝の絵は忠実な写実のようでありながら生と死を扱った宗教画の起源に近いところに立っているように思えるのです。
宗教と芸術は連続的につながっており、その間に線をひけない表現もあると思います。世界は大きく変化しましたが、信仰と全く異なる立場での主張を奥山はしていないように思います。神と奥山とのつながりに違和感を感じる人も多いかもしれませんが、俗世を離脱して聖化させるような視点を受け継いでいるように思えるのです。
多くの世代が続き、何百年の月日が流れるうちに、我々は芸術の中に神の意志を見ることを覚えてきました。二十世紀の初めにかけて物理学の世界では画期的な発見が相次ぎました。世界に対する新しい警鐘も生まれましたが、それは芸術が本来的に持っていた役割だった気がします。
ときとして、芸術はわれわれ人間という生物の潮時を心配して、将来のことを考えさせ、自然と手を取り合って生きることを覚えさせたりもしました。その芸術は地球のある土地における人類の進歩と発展の予見を、はっきりとらえさせてくれるものです。ダヴィンチの発明や、ブレイクの詩を開いてみても、その例は数えるのに、いとまがありません。奥山民枝もその系譜に連なる画家です。風に流され、端の方からちぎれていく雲のような神聖が、奥山民枝の絵にはあるようなのです。