2026
Vol.8
徳 力 富 吉 郎
11月19日 - 1月29日

【開館日】
会期中の木・金・土・日曜日
【開催時間】
10:00 - 17:00(最終入館16:30)
【出陳作家】
徳力富吉郎 Tomikichirou TOKURIKI
徳力富吉郎「薔薇図」
ベン・シャーン「伝導の書」
徳 力 富 吉 郎
HOKUBU記念絵画館
徳力富吉郎は1902年に京都の西本願寺の画所を預かる12代目として誕生しました。京都市立美術工芸学校と京都市絵画専門学校を卒業し、日本画家を目指し国展等の入選を果たしますが、師が亡くなると入選が困難になるという当時の日本画界のしきたりが立ちはだかります。そこで、徳力は子供の頃から好きだった木版画に、本格的に取り組むようになりました。そして恩師の土田麦僊を知り、美術大衆化を理念とする、その恩師の思考に触れてからは、ますます木版画に専念するようになります。折しも関東大震災の影響で版画職人が京都に移り住み、おかげで徳力は専門家の指導を受けることが出来ました。徳力は、進駐軍が買い求める質の低いお土産版画の氾濫を嘆き、後世に残して恥ずかしくないものをという意気込みで版画の制作にあたったといいます。そんな徳力の限定版の創作版画は、洗練された彫の技術が光るもので、版木は桜の木を使用しています。桜は江戸時代から利用され、硬く彫りにくい代わりに、繊細な表現に向いているとされます。日本は浮世絵の伝統を引く木版画に於いて、今日でも注目を集める版画大国ですが、徳力富吉郎の真価は、この木版画の伝統技法を正面から追求したところにあると言えます。
そして「大衆という視点と、雅味のある色彩、世界最高水準の木版画技術、是こそが私が版画を手がけた原点」と自身が語ったように、何より大衆に愛される版画を目指して、制作を続けました。徳力は日本画系の版画家ですが、その伝統を意識してか、形や線が明快に描かれています。しかし、その作風は、歯切れの良いフラットなものばかりではなく、遠近法や、時には陰影を使って、立体感を出したりもしました。陶画や、舞台絵、著述もこなした徳力は、洋画も習得しており、まさに全天候型の作家だったと言えます。
昭和の後期は、木版画に対する関心が高まり、人気的にも、作家的にも木版画が黄金期を迎えた時代です。関西の大御所として、画壇を引っ張った徳力の造形は、ただ自然をそのままに描くのではない、様式化された写意に日本画的な特徴が感じられます。それは、すなわち、木版画の写実表現が平面と立体の見事な陰影の中で統一されたことを示すものであり、そして、それは、個々の個性を重視した近代的な木版画とは一線を画す表現で、そのためにかえって、大衆に受け入れられ、また木版画に日本画の表現が浸透する役目も果たすものでした。
樋勝朋己 バスに乗っていくから
