川瀬恭吾「north 22'01」(チラシ表紙絵)
【会期】
2023年 8月10日(木) - 10月1日(日)
【開館日】
会期中の木・金・土・日曜日
【開催時間】
10:00 - 17:00
これまでの予約制は、状況に応じて変更に
なる場合がございます。
【出陳作家】
川瀬恭吾 Kyogo kawase | 斉藤里香 Rika SAITO
藤本俊子 Toshiko FUJIMOTO
藤本俊子「子供と共に」
斉藤里香「Limbo(at an entrance)」
それぞれのカオス
発掘された瞬間の宝石の色ほど、美しく新鮮なものはないと言います。人間は自分のためになるものを良きものと考えたり、あらぬ方へ美を求めたりして、肌に割れ目を持った美を台無しにすることもあります。同じように、汗や泥にまみれた美は、それなりに豪華で、素朴な心でそれを見るならば、食い下がる迫力を感じさせます。それらの総体は特殊な個性の発展が抑圧されるのに対して勝利するものです。
節度と調和を重んずる美は、時に抑圧に甘んじ、大勢に順応するものです。アートの世界においても万端そつなくこなす正確さは中心的な存在です。しかし、異常な才能を持ち合わせているものにとってこれを伸ばすことが許されないのは、アートにとって残念なことです。正規の教育は大勢に妥協することを潔しとしない自負心までに点数をつけるものですが、志を持った世代には他人のモノサシで自分を測ることを脱皮させる気概が必要ではないでしょうか。
ここでいう異常な才能とは、陶酔的で、創造的で、刺激的な、つまりカオスのことです。はじめはニーチェの提唱した、節度ある調和に相対するものとしてカオスというつもりであったのですが、
それがいつの間にか、価値観の多様性や、現代の美術に感じさせられる不安と混同するようになったのですから、発想というのは面白いというより、大またぎに意味を飛び越えているのですから恐ろしいものです。もっとも、デュオニソス的という言葉の意味が何であるかという問いの答えは何通りもあると思います。その内でも分かりやすいのは、アカデミックとは相反するアートだと私は思っています。それを要約すると、経験で培われた勘を重んずる実験風のアートです。可能なことを可能にするのが正規の教育ですが、不可能を可能にするのがカオスアートだと思っています。
そして、そのカオスとは、画題や、思想、とりまく空気の違いによって、人の心に振動を与えますが、本展では、その違いそのものを作者の心情として捉えて共感することが、根を同じくする作家としての支えになることを証明するものです。選ばれた唯一無二な作品は、根も葉もない理論や、相も変らぬ技術だけではなく、自らの情熱を燃やすモノづくりの姿勢と美意識を映した性格があり、その意識にしっかりと根付いたカオスの姿があるようです。ともあれ、ちょっとサイズの合わない歯車のように、がやがやとした声の集まりですが、たどたどしくも手を繋ぎあう意識を共有させる。そんな作品を通して、それぞれのカオスを感じていただければと思います。